キュレーションという言葉が流行し、キュレーションメディアやまとめサイトが乱立してしばらく経つが、どのサイトも似たようなコンテンツになってきた印象があり、最近はノイズと感じるようにすらなってきた。
キュレーションメディアをシェアする人が多く、そこから錬金術的に利益が発生しているのは事実だし、それを否定するわけではない。ただ、この先にあるのは、”本人発信”の時代だと思う。
キュレーションから本人発信へ
私を含めて編集者は特にそうなのだが、まだ知られていない面白いものを見つけてきて、それを紹介して価値を生み出すこと、つまりキュレーションに、これまで大きな意味や意義を感じてきた。
もちろんそれは重要なことだし、弊社が手がけている仕事の大きな割合を占めている。でも、究極的には、キュレーションはいらなくなって、面白いものや価値のあるものを生み出している作り手本人が、自ら発信していくのが理想ではないだろうか。
変なバイアスもかからないし、無名な人の発信も、内容次第で拡散していくのが、SNS(というかインターネット)の長所のはずである。
例えば、野菜づくりのこだわりを農家が発信して、それに共感した人が直接その農家から野菜を買う。そのような、経済活動をともなった本人発信およびコミュニケーションが、これからさらに加速していくだろう。
シーズン1万本の芍薬を直販する「大谷芍薬園」
昨年「あめつち」で取材させてもらった湘南の「大谷芍薬園」も、その良い例である。花の生産者は、市場の買取価格が安定しないのが、一番の悩みなのだそうだ(花に限らず生産者はみんなそうかもしれない)。
詳細は、「大谷芍薬園」大谷光昭さんのインタビューを引用する。
生産者の悩みの大きなひとつに、市場価格が安定しないことがあります。丹精込めて芍薬をつくって市場に持って行っても、いくらで売れるかはわからない。いい価格で買ってもらえることもありますが、他の産地からも芍薬がたくさん入ってくれば、1本20円とか30円とか、がっかりする価格になってしまうこともあるんです。
芍薬の価値にふさわしい、適正な値段でいつも買ってくれる先も探そうと、息子が考えたのがお客さんに直接芍薬を届ける宅配でした。やり始めた矢先に亡くなってしまったのだけど、義娘の美和さんが引き継いでくれたんです。
そうしたら、瞬く間にお客さんからの反応がクチコミで増えて、いまではシーズンで700箱から800箱が売れるようになりました(編注:1箱15本入りなので、約1万本から1万2000本!)。
いまは宅配が6、市場が3、直売他が1という割合で、売値をあまり心配せずに、芍薬づくりに専念できるようになりました。息子や美和さんがいてくれなかったら、いまでも悩みながら市場中心でやっていたんじゃないかと思います。
引用:「あめつち」
花業界では、先進的な生産者でも、宅配(直販)が3、市場が7が目標で、それすら実現できていないところがほとんどらしい。
ではなぜ「大谷芍薬園」が宅配(直販)が6、市場が3、直売他が1という割合を実現できているかというと、他の生産者にはない本人発信力があったからだ。
収穫までのプロセス+プロ撮影の写真
「大谷芍薬園」は芍薬を収穫するまでのプロセスをブログで発信しており、自然に任せる粗放栽培の様子やこだわりが伝わってくるので共感性が高い。そして、芍薬の写真はプロのカメラマンが撮影。
そもそもの芍薬の品質が高いのはもちろんだが、その魅力がビジュアルでストレートに伝わってくる(カメラマンを1日拘束しても3万円くらいだが、写真は適当に自分で撮ってしまう生産者がほとんどだ)。
こういう発信を見てしまうと、値段が大幅に変わるわけではないので、他の生産者の芍薬を買う気がなくなる。それを象徴するようなエピソードもうかがったので、下記に引用する。
芍薬は、咲く時期が早生(わせ)、中生(なかて)、晩生(おくて)の3種類あって、合わせて3週間がシーズンです(編注:早生が5月1週目、中生が5月2週目、晩生が5月3週目のように、約1週間ずれで連続する)。
芍薬の場合、だいたいどれかの旬が母の日に合わさるのですが、去年(2013年)は暖かくて時期が早まり、母の日にはシーズンが終わってしまうかもという状況でした。花の気分が母の日と合わなかったので、どうしようもありません。
宅配などで注文いただいた方には、「母の日ギフトが1週間早まるかもしれない」とアナウンスしたのですが、みなさんそれでもいいと了承してくれました。母の日に合わせられなくても、うちの芍薬を贈りたいと思っていただけることは、本当に嬉しいですね。
引用:「あめつち」
花に合わせて母の日を前倒ししたファンが多かったということだ。私も今後、「大谷芍薬園」以外の芍薬を買うことはないと思う。
本人発信でビジネスも正常化する
長文になってしまったが、なにかの作り手が発信力を磨くことの重要性は、なんとなく伝わっただろうか。
そして、本人発信は顔の見えるコミュニケーションにつながるため、ビジネスの正常化にも大きく貢献するような気がしている。