昨夜、下北沢B&Bにて行われた、江上英樹氏と草刈大介氏によるトークイベント「僕らが青い羊(ブルーシープ)を作ったわけ~世界中の作家と読者をつなぐために」『ディック・ブルーナ ミッフィーと歩いた60年』刊行記念に参加してきた。
大企業で別々のキャリアを積んだふたり
今後の出版に関して、なにかひらめくきっかけになるかもと思ったのが、私の参加動機である。ふたりのプロフィールは下記に。
江上英樹(えがみ・ひでき)
編集者。小学館で『ビッグコミックスピリッツ』編集部に在籍した後、『月刊IKKI』編集長。主な担当作品に『伝染るんです。』『クマのプー太郎』『サルでも描けるまんが教室』『いまどきのこども』『東京大学物語』『月下の棋士』『Sunny』などがある。『鉄子の旅』のテツ編集長、『ストラト!』劇中バンド“ストラト★ダンサーズ”のリードギタリストとしても(ごく一部に)知られる。2014年秋、小学館を退社、2015年春、草刈と共に「ブルーシープ」を設立。草刈大介(くさかり・だいすけ)
プロデューサー。朝日新聞社で展覧会事業を担当。「ミッフィー展」「エリック・カール展」などの絵本展、「スヌーピー展」「加藤久仁生展」「機動戦士ガンダム展」などの漫画やアニメーション関係、「ブルーノ・ムナーリ展」「アーツ&クラフツ展」などのデザイン関係、そのほか「マウリッツハイス美術館展」などの絵画展を担当。2015年春、朝日新聞社を退社、江上と共に「ブルーシープ」を設立。引用:下北沢B&B
満席で参加できなかった人もいたので、メモの一部を公開する。メモはイベント前半にあたる、彼らの独立した動機がメイン。
小学館と朝日新聞それぞれの辞めた理由
<江上氏>
・編集長だった「IKKI」が潰れたのが独立の大きな理由。雑誌がなくなるので管理職になるしかなかったが、それは嫌だった。「IKKI」は、ものすごい額の赤字を毎月出していた。ブルーシープが半月くらいで潰れる額。
・そもそも95年以降、出版業界は縮小を続けていた。そんな中で、メインストリームである週刊漫画誌には向かないタイプの作家(松本大洋氏など)が活躍する場として「IKKI」は誕生したが、雑誌は赤字で、単行本でなんとかするというモデルだった。
・スリムな組織でないと、作品を丁寧につくっていく「IKKI」のようなやり方はコストがかかりすぎて難しい。
・自分が現場で丁寧にやれれば、最高の漫画をつくる自信がある(と言ったようだが記憶はない)。「IKKI」は外国人のファンがけっこういたので、海外展開はトライしたい。かつて出版社が連合で北米に打って出ようとしたが、各社の温度差があってうまくいかなかった。
・(これまでのバラマキ方式へのアンチテーゼとして?)トランスビューという新刊配本をしない(注文があったところにのみ配本する)取次を使っている。
※トランスビューは出版社なので、流通を委託していると思われる。
<草刈氏>
・朝日ではめぐまれたポジションで展覧会の仕事をやらせてもらっていた。ただ、余計だけど意味があると思うことをやろうとすると、会社の理解はなかなか得られなかった。突き抜けるのはNGだった。
・展覧会ビジネスはパターン化されていて、入場料収入、図録の販売、グッズの販売で構成されている。でも実は、スポンサー契約をして商品を開発するなど、いろんなことができる可能性があった。
・過去には80万人動員した展覧会も手がけた。だけど、それだけ人があふれると、動きながらでしか作品は見られないし、「ここにいたい」という空間にはならなかった。
・一方で、事業規模・動員ともに100分の1である、8000人動員した展覧会では、みんなが「ここにいたい」という空間を実現できた。大企業で手がけるのは難しいが、自分がどちらをやりたいかと言われたら、こっちだった。
・とはいえひとりで独立するのは寂しい、というときに、江上氏と会った。展覧会の仕事は何かを生み出すというよりも、評価された何かを追認していくもの。江上氏と一緒なら、作品が生まれる現場のそばにいることができる。それが大きな価値になると感じた。
・日本の見せ方で作りこんだ展示を、海外の美術館に置いてもらう活動を、小さいところから積み上げていきたい。
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以上、知らない分野なので、展覧会の話が特に興味深かった。以前も書いたが、全国をまわる展覧会と出版の相性はかなり良いと言える。
ただ、それを組み合わせただけでは、別に新しさはない。江上氏と草刈氏のように、その先(海外展開等)にトライしていくことに、意味と楽しさがあるのかもしれない。