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担当している文章の講義でも指摘することが多いのだが、文章がわかりづらくなる要因のひとつは、一文が長すぎることだ。

文法的に問題がなくても伝わらなくなる

一文が長いと、どれくらい文章はわかりづらくなるのか。本多勝一『日本語の作文技術』(朝日文庫)で、わかりづらい文章として紹介されている、大江健三郎氏のエッセイを下記に引用したい。

いま僕自身が野間宏の仕事に、喚起力のこもった契機をあたえられつつ考えることは、作家みなが全体小説の企画によってかれの仕事の現場にも明瞭にもちこみうるところの、この現実世界を、その全体において経験しよう、とする態度をとることなしには、かれの職業の、外部からあたえられたぬるま湯のなかでの特殊性を克服するのはできぬであろう、ということにほかならないが、あらためていうまでもなくそれは、いったん外部からの恩賜的な枠組みが壊れ、いかなる特恵的な条件もなしに、作家が現実生活に鼻をつきつけねばならぬ時のことを考えるまでもなく、本当に作家という職業は、自立しうるものか、を自省する時、すべての作家がみずからに課すべき問いかけであるように思われるのである。

引用:大江健三郎「職業としての作家」『別冊・経済評論』1971年春季号。

……頭にクエスチョンマークが浮かんだのではないだろうか。そもそもが難解な文章だが、一文が長いことでさらにわかりづらさが強化されている。

ちなみに、本の中ではこの文章の構成が図で解説されていてシュールである。

2016-01-21 10.10.24

一文が長いと関係語句が離れやすくなる

一文が長いと文章がわかりづらくなる理由はふたつある。ひとつが、関係語句が離れてしまって、意味がとりづらくなること。もうひとつが、一文の冒頭に何が書いてあったかを忘れてしまうことだ。

解決する方法はかんたんで、ある程度の長さで句点(。)を打つようにすればいい。目安としては、40字以内を目指しつつ、長くても80字以内くらいだろうか。それだけで、勝手に関係語句は近くなるし、読み手が一文の冒頭を忘れてしまうこともなくなる。

私も含めて、油断すると一文は長くなりがちだ。文章がわかりづらいと指摘される方は、日々のメールなどで、一文を短く書く練習をするのをおすすめしたい。

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