出版業界の印税には、刷部数印税と実売印税の2種類がある。弊社はほぼ刷部数印税の版元ととしか仕事をしていないが、旧・中経出版などは(たぶんKADOKAWAの事業部としての中経出版はいまもだが)、実売印税を採用している。
刷部数印税とは、売れる、売れないにかかわらず、刷った分だけ印税を払うという仕組みである。つまり、原価に組み込むという考え方だ。
いまの出版業界では、実売率が80%までいけば上等である(初版の採算分岐点が、一般の版元はだいたい60%に設定されている。平均の実売率は50%台後半だが……)。この売れてないのに払っている20%は無駄じゃないかと、日本でも(おそらく)誰かが思いついてスタートしたのが、実売印税というシステムだ。海外では前払金と実売印税の併用システムがスタンダードなので、グローバルに合わせたとも言える。
実売印税の問題点はふたつある。ひとつは、いまの出版業界のシステムでは紙の本の実売を完全に把握できないこと(町の書店はPOSレジなどが導入されておらず、売れたか売れてないかが把握できない)。もうひとつは、売れなかった場合に恐ろしく低い印税額になるということだ。数百部しか売れない本が山ほどある現状では、3カ月かけて書いて、印税数万円ということも起こりうる。
そこで、日本の(紙の本の)実売印税でスタンダードとなっているのが、倉庫にないものは売れたとみなし、初版印税の半額は保証するというシステムだ。
ざっくり言うと、初版が5000部だとしたら、出版社は、刷り部数×印税率×0.5を著者にまず支払う(2500冊分の印税)。半年後に倉庫在庫が1500冊あったとしたら、1000冊分の印税を追加で支払う。さらに半年後、倉庫在庫が1800冊になったとしても、著者は返金する必要がないという仕組みである。
著者は印税が数万円という事態は回避できるし、出版社も1500冊分(全体の30%)の印税は支払わなくていいので、上記の本はやや赤字になりそうだが、赤字額を縮小できる。
刷部数印税と比べて著者のメリットはひとつもないので、現時点では、弊社は著者に実売印税の出版社をおすすめしていしない(少々の印税リスクを取れない企画なら出版を見送ればいいと思っている。ただでさえ本は出過ぎだ)。
ただ、全体的に初版部数が少なくなるなかで、定価を低く維持するために印税額を減らす版元が増えていくだろうし(印税を1%減らすと、原価率は1.5%くらい下がる)、実売印税を採用するところも増えてくるだろう。
ちなみに、電子書籍の場合、支払われる印税は本当に実売分だけなので、仕組みはわかりやすい。一般書に関しては印税が数万円以内になることがほとんどで、電子書籍のみで採算をとるのは至難の業だが。